弁護士に相談したら立退料が200万円増えた話

昨年夏頃、住んでいるマンションから立退くよう管理会社から言われました。理由は再開発のため建て壊すからとのこと。

弁護士さんに相談したところ当初提示されていた立退料から約200万円増え、合計約300万円の立退料をいただくことができました。

立退きに関する実体験を記したブログが少ないので、今後誰かの役に立てばいいなという思いもあり、記録として書いておきます。

 

 

前提

  • 物件情報
    • 東京都23区内の築年数約30年のマンション
    • 2DK/家賃約12万(管理費別)
    • 2020年2月 賃貸借契約を締結。(当時はまだ恋人だった)夫と住み始める
    • 2022年2月 契約更新
  • 登場人物
    • 夫(借主/入居者)
    • 私(入居者)
    • オーナー(貸主)
    • 管理会社
    • 弁護士

タイムライン

8月上旬 管理会社が変わった旨の連絡と立退きに関する頭出し

インターホンが鳴りドアを開けると新しい管理会社の者と名乗る人間がそこには立っていた。休日だったので夫と二人で対応する。管理会社の変更通知書をもらう。立退きに関して口頭で頭出しをされる。再開発のためマンションを建て壊す予定とのこと。「立退きというのは退去してほしい日の6か月前に通知すればよく、6か月分の家賃相当の立退料は支払われるであろう」というようなことを言われる。「ただ我々(管理会社)も頑張りますので家賃1か月分くらいは上乗せできます」といったことも言われた気がする。そういうものなのか~と思う。

立退きに関しては別途打ち合わせをしたいとのことだった。数週間後に打ち合わせをすることが決定した。

 

8月下旬 管理会社との初めての打ち合わせ、立退料の提示

近くのマンションの一室に呼び出され、以下3点について説明を受ける。

  • 今後のスケジュールの説明
    • 打ち合わせ→合意書へのサイン→立退料の振込み→引越し先の決定→退去立合いといったスケジュール
  • 合意書の説明
  • 立退料の明細に関する説明
    • 明細の内容については省略するが、合計約100万円を提示された

管理会社はその場で合意書にサインをしてもらいたい雰囲気を出していたが、とりあえずサインはせずに持ち帰る。

 

8月下旬 調べまくる

「立退料は家賃6か月分が相場である」といった情報がインターネットには散見されるがそれは果たして本当なのか?何を根拠に?判例があるのか?と疑問に思って、色々インターネットを漁る。

  •  参考にした記事
    • 『賃貸の立退交渉で200万円以上もらった体験談』
      • この記事が一番リアルに近く、この記事に出会ったおかげで弁護士さんを探そう、弁護士さんにお願いをしようと思った。
      • こちらのブログにも書いてあるが、借主が住み続ける正当な理由と、貸主が借主を退去させる正当な理由の綱引きで立退き交渉は進んでいく。
        • 例えば子どもがいるなら幼稚園・小学校を転園・転校させなければいけないとか、近所に老いた親がいるなら出向いて介護をする必要があるとか、そういう分かりやすい理由があるといいなと思った
        • 私たちはそういう理由がない。ここに住み続けなければいけない理由なんてなかった。でも立退き交渉なんて早々経験できるものじゃないので頑張ってやってみようという気持ち
    • レオパレスを追い出されそうな人たちへ』

      anond.hatelabo.jp

        • 弁護士さんへの依頼というのは「美容院や床屋の予約を入れるのと一緒だ」という文章に背中を押された。
    • 『借家契約における借家人との立退き交渉(立退料の算定)』

      www.retpc.jp 

    • 『老朽賃貸住宅の立ち退きのポイント』

      homes.panasonic.com

    • 『立退料の算定方法』

      www.ac-law.jp 

    •  5chの立ち退き交渉スレ、立ち退き料交渉成功例スレ
      • 法定更新、借家権などの言葉を知る
      • なんだかよく分からないが不動産や立退きに異常に詳しい人間が集っていてすごい

8月下旬 弁護士ドットコム で弁護士を探す

以下の条件で探した

  • 「不動産・建築」ー「建物明け渡し・立ち退き」というカテゴリー
  • 料金表あり
    • 初めての弁護士さんへの相談のため、費用が高額だと困るな~という思いがあり、ある程度の費用感を把握するために料金表が提示されている弁護士さん/弁護士事務所が良いと思った
  • 解決事例あり
    • 解決事例がないよりはあったほうがいいと思った
    • 解決事例ありの場合でも、借主目線の事例ではなく、貸主側に弁護士がついて、「居座る入居者に対して 安い立退料で迅速に立ち退いてもらうことに成功しました!」といった事例もある
    • 借主目線の解決事例がある弁護士さんを選んだ
  • 初回相談無料
    • まずは色んな弁護士さんに気軽に相談してみたかった
  • 感謝の声(クチコミ)の記載があること
    • 実績を確認して安心感・信頼感がある弁護士さんに頼みたいと思ったから
  • ZoomやLINE などオンラインでも連絡が取れること
    • どんなに良い弁護士さんと出会えても仕事終わりに夫婦揃って弁護士事務所に行くのが難しいケースがあるかもしれない
    • であればオンラインで打ち合わせができるほうがベターだと思った

 

8月下旬 弁護士ドットコム経由で弁護士に問い合わせをする

  • 現在の家賃や提示された立退料を併記した上で、立退料の増額交渉を依頼したいが対応可能かどうかを弁護士さん二名にお問い合わせをした 
    • 一人は業務量の関係で依頼を受けられないと断られた
    • 一人は増額交渉は可能である旨の返信をしてくださった
      • このときに、立退料は法的な算出方法があるわけではなく、増額交渉はケースバイケースであること、建替えの場合は大体不動産業者がバックについていること、着手金・報酬金など様々な情報を共有いただけたので、弁護士さんに対する印象がよかった

 

8月下旬 弁護士への初回無料相談

事前に弁護士さんに聞きたいことを夫と二人でEvernote にまとめておく。賃貸借契約書を始めとした諸々の書類を持って夫と二人で弁護士事務所へ赴く。メールで事前に連絡いただいていた通り、増額交渉は可能であろうという話を伺う。事前にまとめておいた質問を弁護士さんに投げる。例えば、インターネットで拾った知識(借地権に基づく算出方法はアリなのか?等)について質問する。

 

8月下旬 弁護士に頼らず自力で増額交渉を頑張ってみる

すぐに弁護士さんに依頼してもよかったけれど、せっかくなら自分たちの力がどれくらい通用するものなのか確認したくて弁護士さんに頼らず自力で頑張ってみることにしました。やったことは以下3つ。

 

  •  目標額を決めた
    • 根拠を持って増額交渉をしたいと夫と考えていた
      • 根拠とは・・・
        • 2022年2月に更新をしたので、立退きがなければ2年住めるはずだった
        • 大手引越し業者のおまかせパックを土日に使った際の値段
          • 引越しというのはお金だけではなく、時間も体力も使うものであり、立退きがなければそういったコストを払わずに済んだはず。
          • 共働きで土日しか休みがない中で引越しをするのは大変な苦労である
          • おまかせパックを使ってもいいはず(突然の飛躍。背景は色々あるけど割愛)
        • 引越し先の敷金・礼金・家賃1か月分もほしい
        • 敷金や更新料の返還、火災保険料や保証料その他諸々
    • 諸々計算した結果、目標額は250万円~280万円に決定
  • 目標額に至らない場合は弁護士さんに依頼しようと夫と決めた
  • 上記根拠を提示の上、立退料を増額してくれと管理会社にメールする
    •  最初に結構な額を吹っかけて、妥協点を探っていく形で目標額にたどり着けたらいいな~という思いで対応を進めた
    •  いかにこの物件を気に入っているかのお気持ちも併記した
      • 夫婦揃って通勤がしやすいこと
      • コロナ禍で移動が制限される中・・・(以下割愛)
      • 複数の駅が徒歩圏内であること
      • スーパーやコンビニが充実していること
      • 治安が良く住みやすいこと
      • 別に今のマンションは今すぐにでも倒壊しそうな雰囲気じゃないこと

 

10月中旬 音沙汰がないので管理会社に催促をする

初めての立退きなのでスケジュール感というかスピード感がよく分からないので1か月ほど放置してしまったが季節は秋になりいよいよヤバそうということでメールにて催促をする。再度打ち合わせをしたいとのことだったので、日時を決める。

 

10月中旬 管理会社との二回目の打ち合わせ

オーナー側の動きや、賃貸借契約書の文言を盾に増額交渉は厳しいかも、といったことを管理会社から言われる。賃貸借契約書の文言を盾にってなんでやね~んという感じ。管理会社はこちらの不安を煽ってきていたのかな、よく分からないです。妥協点を探っているようではありました。平行線のまま、ただ時が過ぎたという印象。

 

10月中旬 弁護士事務所との委任契約の締結

埒が明かないので弁護士さんに委任することに決める。弁護士さんに目標額と現在の状況を整理して伝える。弁護士さんは依頼を快諾してくださる。ありがたい。

弁護士事務所にて委任契約を締結する。物件の契約者は夫なので、弁護士事務所との委任契約も夫がしなければいけないとのこと。

持ち物は印鑑と着手金のみ。

 

その後

あとは全て弁護士さんに任せっきり、というわけでもなく、細々とした情報共有や確認事項が弁護士さんから届くので、それを都度確認し夫と相談して返信するという作業を行った。増額に応じてきたこと、条件を提示してきたこと、退去までのスケジュールなど、都度進捗を共有してくださる弁護士さんでとてもありがたかった。私たちも疑問点がある場合は質問をし回答をいただいていたし、新居探しの進捗状況も共有していた。11月中旬に修正版の合意書を締結し、結果的に約300万円、つまり最初の提示額から約200万円増の立退料をいただくことができた。

 

合意書締結後、引越し先を探し始める。年末、引越しシーズンで不動産屋の繁忙期。実は8月頃にすでに"不動産屋探し"はしていたので、この不動産屋に行こう!と決め打ちで不動産屋へ行き、そこで物件探しをした。そして無事1月上旬に引越しが完了。つつがなく終了した。共働きで円滑に物事を進められただけで100点満点だと思う。わりとフラフラ色んな人に会って遊びまくってましたが実は結構大変だった。

 

11月20日 不動産屋で物件探し・内見・審査申込み

11月27日 内見

12月1日 引越し業者の選定開始 32社ピックアップし9社に絞り込む

12月5日~6日 引越し業者のオンライン見積もりを受ける(合計4社)

12月11日 引越し業者の決定、申込み

12月17日 不動産屋で賃貸借契約を締結/引越しの段ボールが届く 箱詰め開始

翌年1月某日 引越し

翌年1月某日 退去立合い

 

ここには書いてないが、当然のように住民票の異動や、水道・ガス・電気・インターネット・郵便・ヤマトの転居手続き、免許・マイナンバーカードの書換え、会社への報告、Amazon楽天の住所変更など引越しに伴うタスクも並行してこなしていた。マジでえらいのだが……。そして立退料の入金もあり、これにて立退き交渉と引越しイベントは無事完了した。

 

結果

  • 立退料が200万円増えた
  • 弁護士さんに支払ったのは着手金+成功報酬(立退料の増額分の数%)
  • 弁護士さんへの支払いを差し引いても十分な大金がいきなり手に入ってすごい

 

所感

意識していたこと

  • エビデンスを残すこと
    • 日中帯は仕事をしており電話は取れない、メールでやりとりさせてくれと事前に伝えておく
    • ex.「大変恐縮ですが、当方通話可能な時間帯が限られているため、 当面は電話でのご連絡はご遠慮いただきたく思います。<mailaddress> 宛てまでお手数ですがメールにてご連絡お願いいたします」
  • 根拠を提示すること
    • 根拠を提示するためにはそれなりに調べなければならないし、計算をしなければならない
    • それらしい根拠があることで強気に出られた
    • 結果的にその根拠が役に立ったかというと微妙だけれど、目標額の指標にはなった
  • 目標額を定めること
    • 〇円を下回ったら弁護士さんに依頼をする
    • 〇円もらえることが確定したらそこで一旦ストップをかける
  • オーナー側が用意している予算を探ること
    • いきなり1億円ほしい!と言ってもオーナー側がそこまで用意しているはずがない。
    • 最初に提示された立退料はあくまで最低額として、どれくらいの幅を持って予算を取っているのか探ることでより目標額に近づけると思う
  • 弁護士さんに感謝の言葉を大げさなくらい伝えること
    • 気持ちよく仕事をしてもらうために感謝の言葉は繰り返し伝えるようにした
    • 最大限のパフォーマンスを出してもらうためには気持ちを伝えることは重要だと思う
    • また今後何かあったときに再度依頼をするかもしれないし……

 

大変だったこと

  • 〇月までに退去をしなければならないという退去日のデッドラインは決まっているが、決着がつくまでは新居の賃貸借契約ができないこと
    • 別に新居の賃貸借契約をしても良いのだが、「引越しの意思があるのなら立退料払わなくていいじゃん!」とオーナー側に思われる可能性があったので、決着がつくまで(合意書締結まで)は新居を決めないほうが良いと思った
    • 「やらなければならないが今はそのときではない」というタスクが個人的には苦手で、脳のメモリをずっと消費している感じがしてイヤだった
    • そして決着がついたのが年末で、繁忙期のため物件が少なかった。
      • 本当はペット可物件がよかったが断念せざるを得なかった
  • 立退きに関する情報が少ないこと
  • 夫婦間でゴール設定を共有すること、夫婦間で連携を取ること
    • 実はこの立退き交渉をしていた期間の半分以上は夫婦喧嘩をしていた
    • 弁護士さんに相談しようと言い出したのは私、弁護士さんを探しコンタクトを取ったのも私、弁護士さんや管理会社とメインでやりとりしていたのも私、という状況が続いた(私がそういうのが好きだから夫は任せてくれていた)
    • にもかかわらず、賃貸借契約の契約者は夫だったため、弁護士事務所との委任契約も夫名義で締結する必要があり、なんだかこれまで頑張ってきた私の手柄を取られるような気持ちになり少しショックだった
    • それを伝え夫に慰めてもらいながら、一緒に目標額の計算をした記憶がある
    • 弁護士さんや管理会社とのやりとりは後半はほとんど夫に任せたが、メールをする際は必ず互いに文面のレビューをした
      • 夫はメールを書く習慣がないため、ビジネス用語やCC、転送機能などを都度教える必要があった。
      • 新卒のOJTみたいで楽しくもあり、つらくもあった
        • 夫にメールの返信を任せたところ、CCに私のメールアドレスを入忘れたり、HTMLメールをテキストメールで返信したために改行が崩壊するといった事件があって、その他の出来事も重なって大泣きしてしまった。
        • このような事件を繰り返さないためにOJTをやった
        • 全て私がやったほうが効率的ではあったが、契約者である夫にも当事者意識を持ってもらいたくて、このような手段を取った
  • 私と夫と第三者でコミュニケーションを取ること
    • 不動産屋や管理会社というのは大抵契約者である夫に対して説明をする。夫の隣に私という存在がいるにもかかわらず、いないように扱う
    • 夫も管理会社に対して話をして、私のほうを見て話してくれないときがあった。それはとても寂しくてつらく感じるから、隣にいる私のほうをたまには見て、一緒に話をしてほしいと夫に伝えた。
    • 一方で、弁護士さんは初回無料相談の際に、夫と私それぞれに一枚ずつ名刺を渡してくださった。これは私にとって初めての経験で新鮮だった。大抵は夫に対して一枚しかくれないから。弁護士さんは夫と私の両方を見て話してくださった。人間の一人としてカウントしてもらえて、すごく嬉しくて幸せだった。
    • こういう男女の扱いの差みたいなものは、幼稚園においてママがメインで先生と話し、パパがいないものとして扱われるといったこともあると思う。ブライダル業界とかもそうなのでしょう。性別関係なく、その場にいるにもかかわらずいないものとして扱われることや添え物のように扱われるのはつらいよね

よかったこと

  • お金が増えたこと
    • 引越し代を立退料でまかなうことができ、実質無料(?)だったこと
    • 立退料が入ったことが嬉しくて、食洗器やロボット掃除機、低温調理機とか色々爆買いした
  • 法学部卒なので法律や契約書などを読むのに抵抗がなく、立退き交渉というレアイベントを楽しめたこと

 

その他

  • 改善点①、夫婦共用のメールアドレスやメーリングリストを持っておくと良いと思った
    • CCの入れ忘れ防止のため
    • 立退きから少し話は逸れるが、「<夫のmailaddress>と<私のmailaddress>宛てに連絡をください」と伝えたにもかかわらず、どちらか片方にしか送ってくれない不動産屋がかなり多い
      • その場合は候補から切った
      • 私がIT企業で働いているから当たり前だと思っていたけれど、CCを入れる文化や全返信する文化って当たり前じゃないんだと思った
  • 改善点②、中途半端に自分たちで対応せず、最初から弁護士さんに頼めばよかった。私たちが中途半端に手をつけてしまったあとで依頼をしても快く引き受けてくれ、対応してくださった弁護士さんには感謝しかありません。
  • 住んでいたマンションが建て壊しになり、物理的になくなってしまうというのは正直悲しい。引越しをしても物理的にマンションが残っているのなら、外から見て懐かしさを感じたりできる。Google Mapで過去の景色が見られる時代で本当によかった。