『入社1年目の教科書』を読んだ

岩瀬大輔さんの『入社1年目の教科書』を読んだ。

 

 

読書メーターによると3000人以上が登録していて、いかにたくさんの人に読まれているのかが分かる。基本的なことしか書かれてないし、常識的で当然だと一蹴するのは簡単だけれども、ここ数日 情緒不安定気味な私はこの本を泣きながら読んでいた。知り合いに20代30代40代が増えて、その中でも、(まだ働き始めていない私が見ても)バリバリ働いている、活躍しているだろうなと分かってしまう、知り合いのことを思いながら読んだ一冊だった。「自己啓発本は役に立つこともあるけどモチベーションあげるために読んでいる」と言っていた人の、私には見せてくれないような仕事ぶりを想像しながら読んだ。

今の私のバイト先、バレエのスタジオでの立ち居振る舞いに置き換えて読むほどまだ自分にはできることが多くあるような気がして、仕事が速いだけが取り柄だ!と思っていたけど、特別なことは何も無い、ただ少しコミュニケーションに積極的になるだとか些細なことから動けることがあるかもしれないと気づけたのも良かった。
来年度から働き始めるこのタイミングで読んでよかったと心から思った。
ので、以下感想。

(1)仕事は総力戦だからこそ、50点で構わないから早く出せ

新人がベテランより高い点数を出すのはどう考えても不可能であって、だからこそ粗削りでいいから早めに上司に提出してブラッシュアップしていきなさい、という話。

「相手に迷惑かもしれない」とか遠慮に時間をかけるよりも、勇気を出してフィードバックをもらいに行って修正に時間をかけたほうが有意義だと、それがより良い成果に繋がるのだと書いてあった。「方向転換は早ければ早いほどいい」というのは、自分がつまづいている部分が思いのほか重要ではなく、自分が重要だとは思っていなかったこっちのほうが実は重要だったと、人から助言をもらうことでより迅速にそちらに舵を切れるということ。

 

(2)仕事に意味を見出す

叱られたときも、褒められたときも、その意味を考えるよう習慣づけたほうがいいと書いてあった。つらいときは「もうこれ以上つらいことは今年は無いな、よかった」と考えるよう意識しろとも。意味をつけるのは自分だから、そんなの気の持ちようだと。

以前、インターンでお世話になった人に「新人に意識してもらいたいことは何ですか」と尋ねたことがあった。まさにそれと同じようなことが書かれていた。

 

(3)予習・本番・復習は同じ割合でやる

本番に全力出す奴らが多いからこそ、最後のアウトプットまでやったほうが一歩リードできるっぽい。

 

(4)新人は新鮮な目線での発言が求められている

「あえて言わせて下さい」「ちょっと筋違いなことかもしれませんが」でフォローをすることが大事。

会議にとって有意義か有意義じゃないかはともかくとしてとりあえず発言して自分が出席している意味をちゃんと考えなさいという教え。

 

(5)「早く帰ります」宣言を早くにする

定時ギリギリで言われると超面倒だから早めに宣言しておけば「早く帰りたい」ってことを早めに周りと共有できるよ、という話。

 

(6)仕事を誰とやるか

つまらない仕事を楽しい人たちとやるか、楽しい仕事をつまらない人たちとやるか
自分はどっちがいいのか考える。

 

(7)全体観をつかむこと

大きい仕事を大勢でやるよりも、小さい仕事を1人でやって全体観をつかむことが大事
大勢でのプロジェクトだと自分が関わっている意味とか意識が薄くなりがちだから勉強のためにも全体観をつかむためにも小さい仕事は便利だという話。

 

(8)コミュニケーションは、メール「and」電話

私は相手の時間を拘束せず、返信のタイミングを渡すことができるメールやLINEのほうが好む傾向にあるタイプの人間なので、読みながらウッときた。あえて電話をすることも大事だよという話。


(9)本を速読するな

普段からテレビや映画やラジオを2倍速で見聞きする私にとってはすごく新鮮すぎる言葉だった。より多くのタイトルに触れて、倍速でも内容を理解して数をこなしていくスタンスをずっと取ってきた。中高生のときはラジオを聞きながら本を読んだりもしていた。

 

けれどこの本には「じっくり読む価値のない本は、読まなければいい」と、書いてあった。
私が今までやってきた、「できるだけたくさんのものを見聞きするために11つに接する時間を短くすること」はつまり、「自分で何が大事か選び取る・判断する技術がないからやってきたこと」で、効率を求めてやってきたことが実は時間の無駄を生み出してきていたことにやっと気づいた。大事な物・大事じゃない物の取捨選択ができないから効率を謳ってやってきただけの愚策だった。


大学1年のときに「1年で本を100冊読む!」という目標を掲げていたとき、1年の終わりごろ、まだ目標の100冊を達することができていなくて、その100冊という数に囚われるあまり、短歌や詩の本を読んで数を稼いでいた気がする。他人から「それで数を稼ぐのはどうなの」と言われてぶちギレたことも思い出してきた…。私としては別に短歌や詩の本を数稼ぎに読んでいたとはいえ行間を読んでいなかったわけじゃないし、ちゃんと接していたはずだけど、他人から見れば「小説よりも詩のほうが軽く読めてしまうからそっちを選んでいるんだろう」と思われるのも仕方がない気がした。ナメるなポエムを!(昔ポエムを書いていたがゆえの発言)

 

(10)人の良いところ探しをする

人を尊敬したり、感動したり、驚いたり、褒めたりするのが上手な知人がいて、なんでそんなに他人に興味が持てるんだろうと思っていた。けど、わりと最近私のそういう技ができるようになってきた。オーバーに驚いたり笑ったりすると、勝手に人が続きを話してくれる。便利。適当に笑ってるだけでいい。
そうすると、最初に話してくれたことと後に話してくれたことの繋がりが分かって「だからこの人はこんなにも楽しそうに喋るんだ」と納得できることも多々あるんだと思った。興味がなくとも興味があるふりをしていけば、そのうち勝手にどうにかなるし、「この前言ってたことどうなりましたか」と話しかけることもできるようになった。勝手に仲良くなれる。便利。

 

(11)ミスの再発防止策は、仕事のやり方を変えること

同じやり方でやるからミスをする。

 

(12)人と比べない 同期と必要以上につるまない

入社するとその会社だけのものさしで物事を見てしまうから、外の人と付き合うことも忘れちゃいけないんだよという話。社内だけなら仕事ができる部類に入るかもしれないけど、他社では違うかもしれないんだから現状に満足せず行動し続けろという。

 

(13)コンビニ出費を抑えろ

小学生からの友達に「コンビニを見かけたら入らずにはいられない」という人がいて、私のほうは未だにコンビニで買い物をすることに慣れずにいる。けど、そのうち毎日毎日コンビニでご飯を買うようになるのだと思うし、それは1年で換算したら物凄い額になってるから気をつけろという教え。どうして街中にコンビニがあるのかしらん…もっと少なくていいのに…多すぎでは…と思ってる自分の感覚を忘れずにいたい。「どこにでもコンビニあるラッキー!」ってなりすぎないようにしたい…。

 

(14)勝負どころを見極める

そのために衣食住に気を遣えという話。朝ご飯食べて出社したら、1日のどこにピークを持っていくのか考えて最初からスパートをかけすぎないように注意しなさいという教え。ここぞというチャンスが回ってきたのにスタミナ不足で全力発揮できないなら意味無いから。

 

総括

「周囲から信頼に足る人物だと評価されれば、次の仕事が回ってくる」という文章が冒頭にあった。「こんなに頑張っているのに評価してもらえない…」と言うのは簡単だけれども、評価されないのにもちゃんと理由があるからそこを自分で考えて改善していきましょうということなんだろうけど、厳しい…。
ただ、こう、結構忘れがちなことを書いてくれているおかげでふとした瞬間に見返したいと思う項目がいくつもあった。「本を速読するな」とかね、やりがちだから…。
あと、著者の岩瀬さんが生命保険会社の人ということで、そろそろ私も保険とか考えなきゃいけない時期なのかな…と思った。



 

【ネタバレ有り】『怒り』で描かれなかったシーンを考える・後悔と葛藤について

李相日監督の『怒り』を観た。2時間22分と大変長い上映時間の作品で、原作は吉田修一の同名小説、読売新聞の朝刊で連載されていた。
主要キャストは渡辺謙をはじめとした誰もが知ってる俳優ばかり。音楽は坂本龍一

観たあと第一声「つかれた」と思った。
キャストもストーリーも音楽も脚本も演出も重いな、という印象だった。
指の皮膚をつねっていないとまともに観ていられないようなシーンもあった。
それぞれの人間の感情を次々に見せつけられては自分の感情の処理にまで手がつけられないような感覚だった。
映画を観てから3日ほど経ち、iPhoneのメモに殴り書きした感想があったことを思い出したのでここにアップしておく。
原作未読なので、あくまで映画自体の感想と、描かれたシーンと描かれなかったシーンとか、①食事②セックス③睡眠④生活の観点について東京・千葉・沖縄に分けて記す。

  1. 東京
    東京組は直人(綾野剛)と優馬(妻夫木聡)とお母さん(原日出子)と最後に少しだけ薫(高畑充希)が出演。ほぼ直人と優馬の2人のみでストーリーが描かれていた。

    ・食事
    役作りとして綾野剛妻夫木聡は一緒の部屋に泊まって生活してたらしいし、一緒の物を見る、同じ景色を見ることを強調して、向かい合って話したり抱きしめあったりというのはなかったように思う。何かのインタビューで妻夫木聡が「剛の横顔ばっかり見てた」というような話をしていて、確かに見つ めあったり互いの顔をちゃんと見て会話をしているシーンは少ないように見えた。直人がコンビニで買い物をするシーンや部屋で果物を切るシーンはあれど、部 屋で食事をしているシーンはなかった。ゲイクラブで無理やりセックスをしたあとラーメン屋に行っていたけれども、それも横並びで座っていた。沖縄組の3人は居酒屋でテーブル囲んでいたよね。千葉組は2人でお弁当。
    向かい合っていたところでぱっと思いつくのは「何か言えよ」「何かって?」「何でもいいから」「…信じてくれてありがとう」のところ。
    あそこでめちゃくちゃに号泣してしまって一緒に行った人から「コンタクトずれた?大丈夫?」「あのシーン泣くところだった?」とか言われたりしたけど、(元腐女子だった)私としてはあんなの、あんな台詞告白でしかないし愛でしかなかった。勘弁してくれ。


    ・セックス
    ゲイクラブの奥まったところで優馬が半ば無理やり直人のことを抱き、バックで思い切り突き上げてたシーン。挿入前にしっかりコンドームをつけていたのは性病感染予防なのかなと思った。
    嫌がるくせにパンツ一丁で体育座りしている直人は一体なんなんだ…。ヤられに来ているようなものだし、行くところがないにしても他に行くところあるでしょうがというツッコミが喉元まで出かかったけれど、この一連のいきさつについては原作では描かれているのでしょうか。
    あとクラブの奥まったところにはセックスできるスペースが設けられているものなんですか?私が行ったことのあるカップル喫茶に雰囲気というか照明の感じとか枕の薄さとかコンドームが置かれているケースとかがそっくりすぎてびっくりした…。そういえば2人はキスしてたっけ。


    ・睡眠
    2人が一緒に寝てるシーンってあったかなあ、と考えて記憶が衰退しているのかちょっと思い出せない。千葉組が寄り添って眠っているところや沖縄の泉ちゃんが泣きはらしたあと眠ってしまって目が覚める、というシーンは覚えているけれど…。直人が部屋を出ていったあと優馬が憔悴しきった顔で直人に何度も何度も電話をかけていたのはすごく覚えている。2人で寝たであろうベッドに今は1人。寂しさで大きめのベッドを持て余していたなあと思う。


    ・生活
    優馬の仕事場の人たちは1人も出てこなかった。友達はいたし仕事関係で電話をしたりスーツ姿で出歩いてもいたけれど、仕事終わりにお見舞いに来たとか、仕事終わりにクラブに来たとか、そういう感じでどんな働きぶりだったのかというのは分からないけど、独身男性サラリーマンがあんな小洒落た部屋に住める、その財力があるということは結構稼いでいるんだなと思った。ああいう財力のある独身男性が部屋でワイシャツを洗濯したりアイロンかけたりするのを想像するとそれだけで胸が高鳴るけど、なんだかあの部屋はちょっと生活感がなさすぎた。整頓されすぎていたような気がする。気が休まらないような気がする。ただ、直人がそばにいてくれた時間だけは安心するし、癒されるし、のんびりできたのだろうと思う。親のお見舞いに行ったり、クラブに遊びに行ったりしている時点であんまり自分の家に執着をしていないというか、家より外にいるほうが好きなタイプだろうに、直人がコンビニで買った弁当が斜めっちゃって直そう直そうとしているシーンで、緊張の糸が切れたみたいに笑って「好きなだけ(弁当の角度)直せよ」って言ってた。愛ですね。
    余談だけど、直人が行ってたコンビニ、商品の数はそんなに多くないのにキッチリ並んでたのあれすごく気持ち悪かった。おにぎりとおにぎりの間のスペースがキッチリ均等で、「丁寧に並べました」感がめちゃくちゃ出てた。

    優馬の後悔は、今の生活とか仕事とかセクシャルマイノリティである自分とかほかにも色々、大事な物が多すぎるせいで直人を信じてやれなかったこと。女の人とお茶をしているからといって浮気だと疑ったり、警察からの電話に「知りません」と言ったり、直人の私物を処分して自分の身を守ろうとしたり、結局自分を大事にしたために直人を繋ぎとめてやれなかったこと。直人といると安心するみたいなことを言っておきながら、その安心を自ら手放した優馬。

    一方で直人は、優馬に対して自分が施設育ちだということや病気があることを言わなかった、言えなかったこと。そんなこと知ったらきっと嫌われる、引かれてしまうという恐怖心に打ち勝てなかったこととかかなあ。


  2. 千葉
    千葉組はお父ちゃん(渡辺謙)と愛子(宮崎あおい)と田代(松山ケンイチ)、ときどき池脇千鶴。どうして愛子が水商売をやっていたのかその理由についてもっと知れたら愛子に感情移入できたのかもしれないけど、個人的にどうしても千葉組はハマれなかった。田代くん、人見知りかと思いきや喋りかければ思いのほか結構喋る。お弁当食べてるシーンが可愛い。


    ・食事
    食事については言わずもがな、愛子と田代のお弁当でのやりとり。父親のお弁当を作るのと一緒に田代くんの分のお弁当も作ってあげようか、と話を持ちかけるあたりがうまいというかなんというか。
    体力仕事だからこそ食べないとやってられないだろうし、逆に言えば愛子お手製のお弁当のためならハードな仕事も頑張ろうと思えるだろうし。


    ・セックス ・睡眠
    冒頭、車に乗せられた愛子と土砂降りの中自転車を漕ぐ田代くんが遭遇するシーン、愛子が父親に連れ戻されたように、自分も借金取りに見つけられ地獄に連れ戻されたらどうしようと思っていたら…というのを、2人の事後のシーンで考えてた。父親名義ではあるけど同棲生活をスタートさせ今は落ち着いて寝ていられるけれども、そのうち…という。

    私は食事とセックスは地続きだと思っていて、それは福田里香さんというお菓子研究家が中村明日美子にインタビューをしたときに「関係が落ち着いたときにお茶をする」という話をしていたことがきっかけなんだけれども、セックス後にお茶をしたり、食事をしたあとにセックスをしたりと、どちらも円滑に進んだからこそ垣間見れる登場人物の生活感という話で、そういった意味では東京組より千葉組のほうが非常に生活感は感じた。


    ・生活
    東京の優馬の働きぶりが描かれない一方で、千葉での田代や父親の働く描写はかなり描かれていたように思う。うわさもすぐに広まってしまうような小さい町で働く人々。ネットもそこまで使わない生活、優馬がネットで犯人の写真を見ていた一方で、愛子は掲示板を見ている。化粧もせず、財布も携帯も持たずコンビニがあるわけでもなく移動手段は車。田舎。

    明日香(池脇千鶴)から後々指摘されていたけれど、父親が「愛子は幸せになれないとでも思ってる」というのは、完全に愛子に伝わっていたし、それで幸せになることを放棄して、自分のことを自分で変わってると言っちゃうような、そういう女の子が田舎で生きるというのはきっと苦しいし、どうやったって家族や町の人からの監視がある生きづらさは計り知れないと思う。

    「どうして外で食べてるの?」と愛子が田代に話しかけるシーンは、「どうしてみんなと一緒じゃなくて一人でいても平気なの?」と言っているように聞こえたし、他人の群れることが前提の社会じゃ、どんなに変わりたいと思っても変われなくて、だから都会に飛び出してしまったほうがいっそ気楽だろうなとも思う。

    田代が人に群れない気質で、愛子は田代のそういうところが好きで、田代と一緒にいれば自分も何か変われるかもしれないし幸せになれるかもしれないし、田代くんみたいにちょっと暗くて素性の知れない人ならお父ちゃんも納得してくれるかもしれない、「愛子は人とは違うから普通の幸せは得られないかもしれないけれど、田代となら」と。結局田舎は女は結婚したら出産をして家事をやるべき、という普通を押し付けられる社会なんだろうな、つらいなと思った。

    愛子は幸せになることを諦めていること、それがゆえに好きな人のことを守れなかったこと、結果的に田代を連れ戻せるとはいえ、人の声に惑わされて疑ってしまったこと、が後悔というか罪なのかなと思った。愛子はとても周りに左右されやすい人だから、田代みたいにちょっと浮くけど動じないような人が合うのかな。

    父親に関してはもう特に言うことはないというか、娘を信じてやれよ、としか思えない。子離れしてほしい。親が子離れできないために子どもが不幸になる典型パターンっぽい。

    田代は、家族が作った借金を背負い込みすぎているような気がする。誰かを頼る術を知らない。



  3. 沖縄
    沖縄組は泉(広瀬すず)と辰哉(佐久本宝)と田中(森山未來)。レイプシーンがエグすぎるのと森山未來の目が終始イカれちゃってるのが本当に怖い。


    ・食事
    3人で居酒屋で飲むシーンがあったけど、お酒の勢いで「俺はこの子のことが好きなんですよ」と言っちゃうような男は、レイプに遭ってる女の子を助けられるわけがない。当然の流れというか。逆にお酒の勢いで告白してる男がヒーロー然として現れても何の説得力もない。


    ・セックス ・睡眠
    レイプ被害者(しかも処女?)が誰かとセックスするようになるまではきっと膨大な時間が必要だと思うし、それは汚い身体を見せたくないという気持ちとか、また乱暴にされたらどうしようとか、あのときの記憶が思い出されるからできないとか、もう想像以上に身体的にも精神的にもキツいんだろうな。しかもレイプされているところを好きな人に見られたとなったらもう地獄でしかなくて、海辺で辰哉に砂をかけるところは距離をつめられて抱きしめられたりでもしたら、慰められたりでもしたら、自分が自分じゃなくなってしまう、そんな言葉がほしくて訴えているわけじゃないんだという、辰哉の父親がデモに参加してそれを見た辰哉が「何かを訴えて意味あるのかな」という言葉に重なって、「訴えても意味ないんでしょ、誰にも届かないんでしょ、この痛みが、怒りが伝わるわけないんでしょ」と泉の台詞になる。父親のデモのことと、レイプについては別問題であるようで実は繋がっている問題なので(沖縄にいる米兵がレイプをしたから、これが日本人による犯行だったらまた話は変わってくる)で、もう泉はボロボロになってしまう。

    泉と辰哉がセックスするなんてときは到底訪れることもなくて、千葉の愛子と田代が寄り添って眠るシーンはあれど、泉と辰哉はボートに乗っても向かい合うことはなく、ずっと辰哉は愛子の背中を見てデートが始まっていた。居酒屋に行っても隣に泉の体温は感じるものの視線は辰哉ではなく田中に向いている。レイプ後には今日も地獄の朝が来たという凄惨な顔つきで泉は目を覚ますし、沖縄組は3人とも見ててつらすぎる。


    ・生活
    旅館の手伝いをしている辰哉、もうきっと小さい頃から手伝っているんだろうなという手際の良さで働いていた。田中がキャリーケースをガンガンぶん投げてるシーンとか食堂を荒らしてるところが最高にクレイジーで今まで積み上げてきたものをぶち壊すわけだけれど、すでに異常者は旅館に入り込んできていた、その知らぬうちに溶け込んでる殺人犯みたいなものがリアル。
    泉や辰哉の学校に通ってるシーンがなかった。

    離島に滞在する田中を訪ねる泉は勝手に田中の住む環境に足を踏み入れない、どうぞと言われたらやっと入っていくところに泉と田中の距離感、年齢差があれど男同士だからか田中は辰哉の部屋にためらいもなく入ってつまみを食べながら酒を飲む2人距離感、デートは重ねてるのに一向に縮まらない2人、レイプされたあとに「おかあさん…」とつぶやく泉とその母との距離感、どれも違う。誰も親しくない。

    辰哉は泉を救えなかったことを後悔しまくっているけれども、海辺のシーン以来泉に会いにいっていない、会いに行く資格さえないと思っている節があるけど、後悔するならもう何が何でも会いに行ってほしいと思いながら観てた。
    近くにいてくれたら何かが解決するわけでも傷が癒えるわけでもないかもしれないけど、物理的にそばにいることがどれだれ人を救うかという、ことを考えてしまった。

    ここまで書いてどっと疲れがきてしまったので、追記があればまた翌日以降書こうと思う。

 

 

 

22歳

 

22歳になりました。お祝いしてくれた方ありがとうございました。
去年の夏のバレエの発表会が終わってから、IT企業のインターンに参加してみたり、出会い系サイトに溺れたり、破局したりしましたが今年もなんとか生きてるみたいでした。

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8月の上旬に、初めての主役を任せてもらったバレエの発表会が終わり、ぼんやりしていたらあっという間に月末になっていました。「できないと思うなら私は言わないよ、できると思ってこの役を任せてるし、できると思って指導しているんだよ」という先生の言葉に涙ぐんだりしながらまあ緊張と重責でガタガタの本番をなんとか終えました。

今まで発表会で泣いたことなんて一度もなかったのに、今回は終演後に友人の顔を見たら涙が止まらなくなった。小さなバレリーナたちは出番が終わり安心しきった顔で、大トリを踊る私を袖から見ていて、客席からの視線よりももっと緊張を煽られた。この感覚は初めてだった。終演後の写真撮影で「泣くのはまだ早いよ~」と笑われたり、ロビーでは「なんで笑うの」「いやあ泣いてるなあ~って」と友達に言われたりした。

就職したらバレエの発表会でグランパドドゥを踊る機会はなくなってしまうかと思ったら、これが最後なのかもしれないと思ったら、自分の脚が一本なくなったみたいな気持ちになった。
就職活動をしながらの練習は本当に大変だった。行きたい会社からのお祈りメールを見たあとレッスンに行くことが本当につらかった。就職活動でアルバイトがたくさんはできなくて金銭的にもつらかった。でもバレエの練習に専念するために早く就職先を決めようと本気で思えた数ヶ月だった。

LINEやツイッターでも「頑張ってね」と声をかけてもらったのがとても励みになった。発表会のあとも、私がバレエのことを話しても興味を持って聞いてくれる人がたくさんいることがとても嬉しかった。今まではバレエをやってるというだけで「いつまで子どもの頃の習い事を引き摺っているんだ」みたいな気持ちになって、おとなしく、おしとやかにバレリーナらしくいなければと思っていたのかあんまり人にはバレエのことを話せなかったように思う。
就職活動をする上で、自分の軸を決めなさいと言われて自己分析をしていたら、私の人生にはずっとバレエがあったんだと初めて気づいた。「16年もやってることは自信持っていいことだよ」と、人から言われたのもきっかけの一つだった気がする。

応援してくれた皆さん、励みになる言葉ときれいなお花をありがとうございました。

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最近幸せすぎて死んじゃうんじゃないかと思うことが多くて、早死にしそうな勢いになってきた。
親友と浴衣を着て花火大会に行ったり、人とオリンピックを見ながら感動したり笑ったり泣いたり、木更津に行って海を見たり始めてなめろうを食べたりした8月だった。親友とディズニーに行った。充実しすぎて今までなんだったんだろうと思うレベルで、ときたま来るバイトも習い事も遊びもないオフの日が来ると寂しくて仕方がなくなる。どんどん自分がだめになっていくような気がする。

・やたらと美味しかったパンケーキ

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・千葉の海

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・初なめろう

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・誕生日祝ってもらった

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誕生日は東京タワーで新宿外苑の花火大会を見た。東京タワーの中での、音が聞こえない花火。都会での花火大会はちょっとしたテロみたいでおもしろかった。高層ビルが燃えていた。

今年もよしなにお願いします。

雑記(7月17日~8月3日)

・7月17日(日)

先日渋谷を歩いていたら「カットモデルやりませんか」と声をかけられた。声をかけてくれた方はとても若い女の子で話を聞けば同い年だという。「就活お疲れ様でした!私の友達もいま就活の真っ最中で…」と彼女が話しているときに、この新人の美容師さんは4年生の大学ではなく専門学校を2年で卒業し就職した、私とは違うスタイルの人生を歩んでいる人なんだと思い至った。「きっときれいにパーマかかると思いますよ!絶対似合います!」と私の髪をそっと撫でてこちらを見上げてくる彼女の足はぺたんこ靴を履いていたので長時間道行く人に声をかけているのだと想像した。就職活動も終わったし、3年ぶりくらいにカットモデルやるか~と承諾すると笑顔で喜んでくれたのがとても印象的だった。
17日はその彼女が働く代官山のおしゃれ美容室で初めてパーマをかけてもらった。髪を少し切られ、前下がりだった髪が前下がりではなくなってしまいしかもそれが思いのほか似合わないことにショックを受けたけど(伸ばしてもいないし切りたくないわけではない、と曖昧な言い方をしてしまったため)、パーマはとてもかわいく仕上がった。ヘアアイロンを使わずとも濡らしてブローしてワックスつけるだけでくるくるが持続するのは、忙しい朝でもおしゃれしたいと思いつつ実行できない私にはとてもありがたかった。美容室には彼女以外に、男の見習い美容師さんがいて、シャンプー前にヘアカタログの一部分を指差し「ここに載ってる男の人、今あそこで髪切ってるんですよ~」と彼女の示す先にいたお店で一番偉いっぽい美容師さんにめちゃくちゃにしごかれていた。「適当にやってもダメだから、一本一本乾かすつもりでやって」とブローから怒られていた。「はい」と不服そうに返事をする見習いくんも、スマホをいじりながら横柄な態度で新人を指導する先輩もすごく怖かったが、きっとこのお店で働く人たちはそういった指導(洗礼)を通過してきた人たちなのだろう。客がいる前でも問答無用でブチ切れる一番偉い人がこっちに来て「これから髪切っていきますからね~」と笑顔で私の前髪を撫でたのがちょっと怖かった。


・7月19日(火)
例の厩務員の人とお泊りをした。

aknynk.hatenablog.com
黒味噌ラーメンを食べたり、カップルシートでレイトショーを観るなどした。白石和彌監督・綾野剛主演の『日本で一番悪い奴ら』を観た。彼は電気グルーヴが好きなので、ピエール瀧を観にいこうとこれに決めたのでした。エロあり暴力ありでヤバい映画だった…。ホテルに戻って深夜バラエティを見ながら一緒に笑ったのが楽しかった。初めてパーマを褒められてうきうきする。


・7月20日(水)
同じ大学に通うバイト先の後輩と食事に行った。彼女は大学三年生なので、主に就職ついての相談を受けた。留学に行きたいが、留学から帰ってくる時期と就職活動解禁の時期がかぶってしまうので心配であるということだった。以前ラジオで「就職活動の時期が迫っていますが留学に行きたいと思っています。この感情は就職活動から逃避したいがゆえの欲求なのでしょうか?」という相談があったけれども、そこは切り離して考えていいと私は思う。留学したら留学先での経験が、留学しなかったらしなかったで何かしら経験がどこかしらで得られるわけだし、結局は自分次第じゃないと楽観的な考え方をしてしまうので大したアドバイスはできなかった。
彼女はたくさん兄弟がいて、上のお姉ちゃんはもう結婚しているという。母親も結婚が早く、私も早く結婚したいんですと言っていた。田舎は総じて結婚が早い。子を持たない家庭を批判のまなざしで見ているような気がする。そこまで急がなくていいんじゃないのか、なるようにしかならないんじゃないのかな、と思いつつも、将来結婚だの出産だのを経験する自分は、いまの自分と地続きであり、運命の出会いや運命の出産などは無いのだということを念頭において生活しなければならないなと思った。


・7月24日(日)
クリスマスイブ5ヶ月前の日曜日、友達とミュージカルを観にいった。

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三浦春馬小池徹平が主演の『キンキーブーツ』という作品。三浦春馬ドラァグクイーンを演じるというから非常に楽しみにしていた。大学一年のときに取っていたジェンダー論という授業でドラァグクイーンに関するレポートを提出したくらいドラァグが好きなんだけれども、実際めちゃくちゃにガタイのいい男がピンヒールを履きガンガン踊っているのを観たらもっと好きになってしまった。ソニン演じるローレンが小池徹平演じるチャーリーに惚れてしまったときに「どうして恋人がいる人は魅力的に見えるのかしら?」と歌うシーンがあって、先日初めて失恋を経験した私にとっては分かりすぎる曲だった。余裕があって優しい男は妻や恋人や安定した軸があるからこそ魅力的に見えてしまうんだよな、と痛感して握り締めた手のひらに爪が食い込みそうになった。「目の前の他人を受け入れること」「情熱で人を傷つけてはいけない」というすごくシンプルだけど難しいことを乗り越えて一歩前進する人々の話だった。音楽が最高。


・7月29日(金)
翌日が土用の丑の日ということで、厩務員の人と週末の神田に鰻を食べにいった。鰻だいすき。無限にたべたい。仕事終わりのサラリーマンが鰻を食べてる姿がちょっと面白かった。普通に帰るつもりだったのに、途中下車をした。終電がなくなってしまったので深夜ドライブをした。相変わらず夜景がきれいだし相変わらず彼は運転が上手。「一回気持ち悪くなるくらいに鰻たべたいよね」「ときどきちょっとの量だけ食べるからおいしさが際立つんだよ~」

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・8月2日
3年ぶりに浴衣を着た。親友と花火を観にいった。久しく花火大会に行ってなかったので、ものすごい人ごみの中でものすごい花火を見た。打ちあがる花火を見て各々が「きれい~」「すご~い」とだいたい似通ったリアクションをし、一緒に拍手したりとなんとなく一体感のある光景がとても良かった。花火後に浴衣姿でハンバーガーを食べたのも楽しかった。「仕事でも研修でも接する人が違えば対応の仕方も違うし、その都度学べることがある苦じゃない」というようなことを言っていた親友がすごく大人に見えた。

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・8月3日(水)
小学校からの友達とご飯に行った。話す内容が男と就職と一人暮らしに関することばかりで、非常に20代前半特有の匂いを帯びてきた。同い年で、インターネットでの姿も現実での姿も見せている相手は彼女しかいない。なんでも話せる相手なので気負う必要もないし、定期的に彼女と会わないと死ぬんじゃないかと思う。彼女と話していて思ったのは、親から優しくされた経験がないがゆえ、今更他人から少し優しくされるだけで今までの自分が救われるし、初めて自分を肯定されるという経験にまだ身体が馴染んでいないということ。今は毎度新鮮な喜びを持って摂取している「優しさ」という劇薬にそのうち慣れてしまって、傲慢な態度を取るようにならないかがこの先の心配事のひとつなのでした。

雑記

 

・7月7日(木)

内定先の懇親会に行った。事前に届いていた人事からのメールには「リクルートスーツじゃなくて構いません」と書いてあったため、迷いなく現在の私が装えるオフィスカジュカル的な私服で行ったらほとんどの同期がスーツで来ていた。非常に恥ずかしい思いをした。「私だけが私服で来ているのですでに帰りたくなってますが、よろしくお願いします」と自己紹介をしたらウケた。自己評価56点。

 

・7月8日(金)

アルバイト先の点心屋さんは駅ビルの一角にある。この日は『催事』と称して初めて改札前で点心を売った。某七夕祭りの影響から大変人通りは多いのだけれども、蒸し暑いこの季節に点心を積極的に食べるという人は少ないであろうと誰もが予測をつけられるはずなのに決行したイベントである。結果、売り上げは芳しくなかった。

私は看板を持ちながら「いらっしゃいませ〜セットがお買い得ですよ〜餃子がただいま焼きたてです!」などとのたまいながら接客をしていたのだけれども、ある時子連れの主婦に話しかけられたのでした。

「お姉さん、看板逆だわ」

顔から火が出るとはこのことでした。自己評価39点。

 

・7月11日(月)

バレエの発表会が来月に迫るということもあり、プログラムが配られた。先生から来場者への『ごあいさつ』に私のことが書かれていた。そんなことは初めてのことだった。

「(前略)当時は5歳だった彼女も今年で22歳。大学で就職活動しながらレッスンに励んできました。そして今回初めて主役を演じます。とても初々しい素敵なオーロラ姫になります」

初めて読んだとき涙が出るほど嬉しかった。

バレエを続けてきて本当に良かったと思った瞬間だった。

正直なところ、就職活動が終わり気も抜けてしまった私は夏の暑さにかまけてバレエのリハーサルに対して本気で取り組んできてなかったように思う。一緒に踊る男性の優しさや、共に練習している人たちの言葉に甘やかされていたように思う。

「やらないよりはやったほうが全然いい」「すぐに身体は反応できないかもしれないけどイメージするだけで全然違うよ」「耳が聞こえない人にも分かるように踊りなさい」という先生の言葉にやっと目が覚めた。

本番が迫る。観てくれる人のためにも、これまで支えてくれた人のためにも全力を尽くして初めての主役を務めあげたいと思う。精進します。自己評価76点。

 

・7月12日

ポケモンGO早くやりたい。住所や氏名などの個人情報が容易にバレるらしいので最善の注意を払ってやりたい。

②あとやたらと私の中でジャニーズ熱が再度急上昇している気配を感じる。周りもつられてジャニーズ熱があがってるので結局みんなジャニーズが好きらしい。

③ビストロスマップにゲスト出演していたミランダ・カーがやたらときれいな発音かつ分かりやすい言葉で英語を話すので、英語が聞き取れる気になってしまった。

④シンクロナイズドスイミングでアナ雪やるのは発想の勝利だと思った。

神谷浩史中村光と結婚しているらしい情報が届いたが特に感慨はなかった。

自己評価50点。

 

・7月13日

①家計簿テンプレートをエクセルで作成したい。

②怖い夢から醒めることができず、母親の声でやっと夢から醒めることができた。苦しかった。

https://twitter.com/_ynk/status/753051444673077248

③2016年の夏は天皇がアツい。

④友達の家にバレエの発表会のプログラムを渡しに行こうと思って約束を取り付けたのに、友達に忘れ去られ1時間半をドブに捨てる。ただ不思議と友達には怒る気持ちにならなかったのだけれど、おそらくそれは私がプログラムを渡すはずだった時間に、友達が内定の電話を受けていたからである。

⑤気合いでTBSラジオクラウドを聞く。ニッポン放送文化放送などまだpodcast配信しているものを片っ端から聞いている。辛坊治郎さんの『そこまで言うか!』や、みうらじゅんさんといとうせいこうさんの『ザツダン!』、『日経トレンディ』、田中理恵さんと吉田尚記さんの『アニータン』、戸田恵子さんの『大人クオリティ』などを新たに聴き始めた。すでに聞いている『バイリンガルニュース』や内山昂輝さんの『1room』もちゃんと聞いてる。

自己評価70点。

 

・7月14日

会いたい人に会った。「爽やかな服だね」「ネックレスいいね」「かわいい顔だね」とやたらと褒めてくれるのでニコニコしてしまう。

「大きな声で笑うようになったし表現をストレートに出すようになったね」と言われた、性格も変わったと言われた。「あなたに出会ったおかげで私はこんなにも劇的に変わったんですよ」と言いたいのにその言葉がどうしても出ない。変化に気付き褒めてくれる、話を聞いてくれる、驚いてくれる、我がことのように喜んでくれる、「それを知れただけでも儲けものだね」「そこがいいんじゃない」というその思考回路が愛しい。

「今年のバレエの発表会で主役やるんだよ」「今まで主役とかやったことあるの?」「ない、初めて」って言ったらすっごく喜ばれた。「よかったね、よかったね 見てくれてる人は見てくれてるんだよ」と言ってくれる人がいるだけで私は救われる気持ちになる。ありがとう、大好きという気持ちになる。

忙しいのに平日の午前中から時間を割いてくれることが本当に嬉しい。初めて主役をやることを我がことのように喜んでくれることが本当に嬉しい。

「いいじゃん、よかったね」と彼の口癖が今にも耳元で思い出される。

自己評価86点。

厩務員

 

「生きててよかったなって思うときってどんなとき?」

運転席からそんな質問をされたとき私は咄嗟に答えることができなかった。戸惑いを隠すようにして助手席から景色を見る。眼前には海が広がっていて、太陽に照らされたそれはきらきらと光っていた。
生きててよかったなと日常生活で感じたことなど一回も無い。

「行きたい会社から内定もらったときかな」と最近一番嬉しかったことを答えてみたけれど、彼は「そういうのじゃなくて」と言ってくる。おそらくは外的要因ではなく内的要因から来る「生きててよかった」を尋ねている。改めて考えてみてもそんなふうに感じる瞬間が何も浮かんでこないのでその旨を正直に告げると「色々あるでしょ、たとえば…」と例を挙げていたが、どうしても私にはそれが「生きててよかった」と感じるほどの代物には思えなかった。

久しぶりにドライブをする。運転してくれている人は普段は厩務員(きゅうむいん)の仕事をしている伊勢谷友介似の人。かっこいい。厩務員とは競馬の馬を育てる人のことで、「人間も馬も接し方は同じ」と言うのが口癖でそう言われるたびに「人間と馬は違うでしょ」という気持ちになるが黙っておく。

先日、内定祝いということで温泉旅行に連れてってもらった。熱海のほうに行くのは幼少期以来のことだったのでとても楽しみにしていた。
私の家の最寄り駅まで迎えにきてくれて、助手席に乗り込んだ瞬間「あっ白かぶりだ、白を着る人間は心が汚れてるって言うからね~」と私の着ているYシャツと彼が着ているポロシャツを指して笑っていた。「夏なんだから余計白なんて一番着やすい色じゃん」と言ってもいやいやと口角をあげながら否定してくるのがおかしくてつい笑ってしまった。

平日に行ったため、海沿いを走る熱海ビーチラインは車の数も多くなく、しかもこれ以上ないくらいの快晴だったので海がすごくきれいに見えた。釣りをしている人や海岸を均しているブルドーザー、あと船。

途中お昼ご飯で食べた鱧天冷やし蕎麦南高梅が本当においしかった…。

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旅館に行く前にコンビニに寄ったんだけど、伊勢谷がやたら買い込むので「そんなにいらないでしょ~」とカゴの中をのぞきこみながら言ったら「夜は長いんだから」と弾む声で答えてたのがかわいかった。私だって今回の旅行はすごく楽しみにしていて、旅館がもう目前ということもあってかめちゃくちゃにワクワクした。跳びあがりそうになるくらいには楽しみだった。

旅館に着いて、露天付き客室と部屋から見える景色に感激した。仲居さんが「あちらに見えるのが初島でこちらは大島です」と説明してくれている間も飽きることなく景色を見て早速温泉に入って、もうその時点で幸福感がすごかった。最高でした…。

夜ご飯がこれ。

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美味しいに決まってるんだわ。カサゴの丸焼きとか鮎の塩焼きとかデザートもおいしくて、ボリュームもすごくて食べるのが大変だった。

 

 

 
担当してくれた仲居さんが私たちの年齢を聞いてきたり、裏でこういうこと話してたんですよ、とかこれおいしいから食べて、ってすごい言ってくる人だったのがなんというか物珍しくていっそここまで近い距離感で接してくれると潔くて好きだなと思ってしまうのでした。ご飯がおいしすぎた。おつくりおいしかった。

 夜ご飯を食べ終わったあと、仲居さんともう一人男の人が布団を敷きにきてくれたんだけど、その手際のよさについ見とれてしまった。ああいうときどうしていればいいのか分からなかったので突っ立ってその様子を眺めていたんだけど本当にささっと布団を敷いて「ごゆっくり」と頭を下げて下がった仲居さんが、さっきまでガンガン話してきた人とは思えなくておもしろかった。あとやたら用意してくれたお水がおいしくてめちゃくちゃ飲んだ。「水素水なんじゃないの?」「やめて!」

電気を消して悩み事やら恋愛のことなどを話していたら気持ちが暗くなってしまったので二人でスマホを覗き込みながらお笑いの動画を見た。
「さっきも言ったけど、おいしいご飯たべて温泉入って笑って、ってこういうときに生きててよかったな~って思うんだよね」という言葉を聞いて初めて私にもこれが「生きててよかったと思う瞬間なのか」と感じた。内定もらったときより全然嬉しいし幸福でしかなかった。どうしようもなく幸せで泣きそうになるほど充足していてこのまま今日が終わらなければいいのにと思う気持ちがこれか、と思った。
結局深夜までごろごろしていて「先に寝たほうが負けね」と言いつつ二人して同じようなタイミングで寝てしまったのでどっちも負け。

朝ごはんも魚介類がたくさん出てきて、これまたボリュームがすごくて、それでもなんとなく良い感じの満腹感でふしぎだった。
「おれは何事も楽しみたい人間なんだよ」「いまの自分の中身だけ持って大学生に戻りたい」「すぐ検索するより、あから順に探していったほうが答えが見つかったときの達成感があるでしょ」「『他人だから違う』を理解できない人のことを理解できない」「冷たい人間だと思う?」
色んなことを言っていた。どことなく孤独を感じさせながらも人生を楽しんでいる彼のことがとても魅力的に見えた。
また熱海ビーチラインを通って現実に戻ってきて、別れ際に電気グルーヴの『電気ビリビリ』が流れていたのがやけに印象に残っている。



 

外資系IT企業の社員

先日某大手外資系IT企業の社員さんと会った。
就職活動が終わり暇を持て余す私は、以下のサイトを利用して知らない人と会っている。
CoffeeMeeting[コーヒーミーティング]

Matcher(マッチャー)| OB訪問の新しい形

 

コーヒーミーティングはOB訪問と出会い系サイトの間という感じのサイトだが基本的にあんまり盛り上っていないのでいつ見ても常連の顔しか見えない。ただ、コーヒーミーティングというだけあって大抵の場合は喫茶店やレストランで食事をしながら話をできるのだと思うし(どこでどのようにして会うかは当事者にゆだねられているので「大抵の場合」とした)、おいしいご飯屋さんの開拓と知らない人と知らない話ができるというのが一石二鳥で気に入っている。

一方MatcherはOB訪問に特化しているので出会い系サイトのようになるかもしれないという恐れはコーヒーミーティングより大分薄れる。就活生とOBのどちらかに登録し、OBが提示する「就活相談に乗るので○○してください」という看板にワンクリックで会いたい人と会うことができる。双務的な感じが気に入っている。また、OBは所属している(所属していた)企業の名前を実名出して登録しているので、就活で話を聞きたい社員も見つけやすい。

先日会ったその社員さん(仮にMさんとしておく)とはコーヒーミーティングを通じて会ったのだけれど、「就活生はあんまりこういうOB訪問のためのツールってそもそも使わないよね」と言っていたし、私だって就活を終えてから使い始めているので、Matcherはともかくコーヒーミーティングはあんまり儲かってなさそう。アプリが使いにくすぎる。でも便利ではある。流行ってほしい。

 *

さて、私は基本的に顔も見たことがない、声も聞いたことがない、どんな人なのか知らないという完全の見知らぬ人と会うことや話すことが好きである。中学生のときからジャニオタのオフ会に参加したり電話したり年賀状を交換したりしていたし、高校のときはGRANRODEOのライブで隣の立見席にいた女の人に「すごい良いライブでしたね、よかったらメアド交換して感想メールしませんか?」みたいな気持ち悪いことを行ったこともある。mixiで知り合った男と付き合ったりした。一昨年は坂本真綾のライブに初めて行き、感動のあまり号泣していたら隣のかわいいお姉さんがティッシュを差し出してくれその優しさにまた涙し、次の年に一緒にライブに参加しすっかりお友達となったりもした。
ツイッターを通じて出会った人もたくさんいたし、北海道に旅行したときは北海道在住の子におすすめの土産物を教えてもらい、関西旅行のときは関西在住の人たちとご飯を食べた。恋愛もした。最近は定期的に会ってディズニーに行ったり遊びにいくお友達もいるし、大学に友達が全然いないのに全然さみしくない。オタクじゃないけどオフ会だけが出会いの場なわけではない。
初めて会った人にいきなりホテルにつれていかれそうになったこともあるし、出会い系サイトで気持ち悪い人に会ったこともあるけど、良くも悪くも簡単に知らない人と出会えるインターネットはとても便利だ。

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外資系IT企業の社員さんであるMさんは、子どもを溺愛していて休みの日に家族で行ったときのことを目を細めて話すので、こっちまで胸のあたりがぽかぽかになった。
「自分の顔そっくりの子どもが生意気なことを言うからむかつくんだよね」と言いながらも顔は笑っていて、愛しさしかなかった。「そんな生意気な子どもだけど甘えん坊だから今度のお泊り会が少し不安なんだ」と笑う顔が今思いだしても泣きそうになるくらい素敵だった。Mさんはあんまり一人称を使わないことに少し経ってから気づいた。「僕」とも「俺」とも言わない。嫌味なく自分の話をして、開示して、惹き付けるところが大変に魅力的だった。話すことも脚色されてない、素朴な日常のおもしろいことを淡々と話すので聞いてて何より癒された。「平日に水族館に行ったら遠足で来た大勢の小学生たちとバッティングしちゃって全然近くで見られなかったんだ」とか「東京タワーの水族館は暗いからやめておけ」とか、「上野動物園にはあんまり行きたくない」とか鴨川シーワールドに行きかけて断念した話とか、聞いてて「それはすごいですね!」って褒めなきゃいけないようなビッグイベントの話をしないので話していてとても落ち着けた。あとは「あなたはどうなんですか?」って聞いてこない、適切な距離を保って接してくれるのも嬉しかった。


こうやって人と会って話すと、その人の特徴みたいなのがつかめるし、自分の立ち居振る舞いの反省になるのでとても勉強になる。私は「そうですよねそうですよね!」とか同じ言葉を二回繰り返しすぎているような気がする。バカっぽいので直したい。